今年一年の楽しみを振り返る 2014

今年観た・読んだものであり、今年公開とは限らない。順序は基本的に観た・読んだ順であり、ランキングではない。

映画

チョコレートドーナツ

1970年代アメリカ、同性愛者のポールとルディは育児放棄された少年・マルコを引き取るが、社会の偏見と差別が彼らを引き離す。

差別と偏見によって一人の人間としての幸せが顧みられなくなるという不条理に怒りと悲しみを覚える。今年は青森での同性婚不受理など、日本でもLGBTに関して大きな動きがあった。

砂の器

1974年製作。蒲田で起きた殺人事件、被害者が残した東北訛りの「カメダ」という言葉を頼りに今西警部補は秋田へと向かう。

終盤のシーケンスにただただ圧倒される。本来なら自分も加わっていたであろう児童の輪を見つめる千代吉や、子を思う父の取った行動に涙を禁じえない。映画とはかくも心を揺さぶるものなのかと感じ入った。

マダム・イン・ニューヨーク

インドに住む主婦・シャシは英語が話せず家族から軽んじられていると感じているが、姪の結婚式の手伝いでニューヨークへ行くことになった。

主人公がニューヨークで一念発起し、そこでの出会いによって尊厳を取り戻していく様が心地よい。家族がお互いを対等に感じ、決して相手を決め付けないようにという呼びかけが心にしみる。サリー姿も美しい。

6才のボクが、大人になるまで。

6歳の少年が親の離婚などを経て18歳になるまでの姿を、同一キャストと12年の撮影期間で描き出す。

観終わった後に、よくぞここまで育ってくれたという感慨が身を包む。男児から少年、そして青年へと、淡々と描かれる成長の姿に、この子(もはや「子」ではないが)の将来に幸多からんことをと祈らずにはいられない。

(500)日のサマー

2009年製作。冴えない青年・トムは同じ職場のサマーに一目ぼれし、これぞ運命と思いを寄せていく。

観ている間、「うんうん、そうしちゃうよね」と主人公に同調する視点、「とはいえその行動は『不正解』だよなあ」と傍観する視点、「でも自分がその立場に置かれたらその『不正解』をなぞってしまうんだろうなあ」と再度自分と重ね合わせる視点が生まれ、引き込まれていった。個人的に「運命」は結果論だと思う。


次点として、終盤明かされる「真実」におののいた『小さいおうち』、人生のまさに輝かんとするときをコミカルな映像で綴る『グランド・ブダペスト・ホテル』、聾唖の青年と彼を取り巻く二人の女性の人生を楽しくも切なく描いた『バルフィ! 人生に唄えば』、圧巻のSFである『インターステラー』を挙げる。

ライトノベル

この恋と、その未来。

女性優位の家庭から抜け出すため全寮制の高校に進んだ主人公・四郎、しかし彼のルームメイト・未来には重大な秘密があった。既刊2巻。

東雲侑子」シリーズの森橋ビンゴが、新シリーズでは性同一性障害を真っ向から描く。苦く、ままならず、やるせない、濃厚な青春に悶絶寸前。「東雲侑子」シリーズ登場人物の影もちらつき、前シリーズファンとしても大満足だった。

七姫物語

群雄割拠の時代、「姫」として担ぎ上げられた少女と、彼女が見つめる世界の姿を描く中華風ファンタジー。全6巻

読み始めたときは滅びの物語かと思ったが、読み終わってみれば優しくも凛と立った物語だった。未来を感じさせつつ無事完結してくれたことを祝福したい。


ライトノベルではないが、きれいな花園の地中で絡み合う根を描いた桜庭一樹青年のための読書クラブ』、友情の誕生とその喪失が心に残る竹宮ゆゆこ知らない映画のサントラを聴く』も面白かった。

マンガ

神様がうそをつく。

小6の少年・なつるはふとしたことから同級生の少女・理生の秘密を知ってしまう。少年と少女、秘密を抱えた夏が今、始まる。1巻完結。

初めて入った書店のマンガコーナーで、背表紙がすっと目に入ってきて購入。どうしようもない現実に、それでも立ち向かいたいという思いが胸を衝く。映画『誰も知らない』『スタンド・バイ・ミー』を思い起こさせる。

メイド諸君!

地方から東京に出てメイド喫茶でアルバイトすることになった千代子は、店の常連客・鳥取とプライベートでも知り合う。全4巻(新装版全2巻)。

ネット上では「なんで処女じゃないんですか!?」のコマで有名な作品。「紳士的なオタク」たらんと振舞ってきた鳥取の、その陰に隠れた臆病と不信があらわになっていく展開に、わが身を切られるような痛みを感じる。予定調和を踏み外したラストに、これぞまさしくキヅキアキラ+さとうなんき作品と唸った。

聲の形

聲の形(1) (講談社コミックス)

聲の形(1) (講談社コミックス)

小学生の石田将也はクラスに転校してきた聾の少女・西宮硝子をいじめ、再び転校させてしまう。5年後、いじめられっ子に転落していた石田はすべてを清算するため西宮に会おうとする。全7巻。

主人公の取ったのと行動と同じことが主人公自身の身にも降りかかるのに、人と人とが関わる因縁の妙を感じる。マンガであることを最大限に活かした大胆な表現にも圧倒された。


少女マンガと女性向けマンガの境界を漂う物語が新鮮な草川為『今日の恋のダイヤ』、二人姉妹の閉塞感がどこか物悲しい小川麻衣子『魚の見る夢』、イラストレーター・庭(作者の別名義)の魅力が詰まった紀伊カンナ『海辺のエトランゼ』も印象に残る。

アニメ

凪のあすから

海中にも人が住む世界での青春群像劇。昨年から引き続き視聴。「優しくなりたい」と「嬉しくなりたい」の重ね合わせなど、はっとさせる台詞に満ちていた。

グラスリップ

福井を舞台にした青春群像劇。思わぬ展開の連続になかなかストーリーをつかめなかったが、何より印象的だったのは登場人物の表情、台詞よりも立ち振る舞いに感じ入る作品だった。特に、3話で祐の言葉を待つ幸と、11話で陽菜の伝える「姉の言葉」を聞く母の、それぞれ相手が言葉にしていないことに感づき見守ろうとする表情がよかった。

SHIROBAKO

アニメ製作会社の新人・宮森あおいを中心に、アニメ製作の現場を描く群像劇。トラブルの連続に見ていてハラハラがとまらない。私の場合、自分もこう人に心配をかけているのかしらという部分で胃がキリキリする。


振り返ってみればP.A.WORKS無双の一年だった。それ以外では、動く志村貴子キャラを久々に見れたのが嬉しい『ALDNOAH.ZERO』がある。

来年に向けて