今年一年の楽しみを振り返る 2016

今年も素晴らしい作品に満ちあふれていた。

映画

リップヴァンウィンクルの花嫁


押し流されがちな女性・七海はSNSで知り合った男性と結婚するが……
冒頭から甘い旋律が流れ、岩井俊二監督作品を見ているのだなという気分を盛り上げる。場面ごとに別人のように見える黒木華の演技に、胸が張り裂けそうになりつつも最後には祝福を贈れる。

ズートピア


動物たちの暮らす街・ズートピア、ウサギとして初めて警官になったジュディは、子にアイスを買おうとするキツネ・ニックの姿を目にする。
社会性とエンタメ性を高度に融合させた大傑作。ひとつひとつのシーンが立場を変えて再現される芸術的なまでのリフレイン。単に動物たちの映画ではなく、人類の進歩をうたった映画であると感じた。

ブルックリン


1950年代、アイルランドからニューヨークに一人移住してきたエイリシュ。街にも慣れ恋人もできるが故郷から悲報が届く。
大西洋を隔てた圧倒的な距離に翻弄される女性の物語。インターネットもない時代、手紙だけでつなぐには離れすぎた思いが胸にしみいる。クライマックスの決断が降りてくるシーンが鮮やかであり、ラストで反復されるシークエンスも味わい深い。

だれかの木琴


美容師・海斗に髪を切ってもらった主婦・小夜子。やがて小夜子の行動はエスカレートし、海斗の家の前に現れる。
行動原理のわからない人がいるという恐れがまず来るが、見ているうちにふと自分も他人から見ればそう見えるのではという恐れが生まれる。小夜子の行動は、人との距離感がマジョリティからずれているからではないかと思え、最終的にはそのずれを哀しくもいとおしく感じる。

この世界の片隅に


広島市に生まれた少女・すずは呉へ嫁に行くが、太平洋戦争がはじまりその日常は少しずつ変わっていく。
戦前の広島の街の華やかさがまぶしい。最初はのほほんとしているだけにも見えたすずの芯に潜む強さに引き込まれる。


邦画では上に挙げた以外にも、実家感あふれる舞台にしんみりする『海よりもまだ深く』、言葉への情念に惹きつけられる『舟を編む』(2013年公開)、緊迫感を持ちつつどこかコミカルな会議シーンが印象的な『シン・ゴジラ』、新海誠がついにあの終わり方に到達した『君の名は。』、人の関わりの難しさと因縁の妙を感じる『映画 聲の形』などがよかった。
午前十時の映画祭で観た作品では、余命宣告された男の狂騒と覚醒を描いた『生きる』、青春の暗黒時代を切り拓く『いまを生きる』が印象的だった。
洋画では、期待を超えるSFアクション『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』、続きが気になるファンタジーファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』などがある。

マンガ

あとかたの街

あとかたの街(1) (KCデラックス)

あとかたの街(1) (KCデラックス)

太平洋戦争下、主人公・あいの住む名古屋にも空襲の火の手が迫る。(全5巻)
私自身名古屋出身というのもあって手に取った作品。主人公の暮らしぶりが徐々に困窮していく様、そして名古屋大空襲に胸を痛める。

ラストゲーム

ラストゲーム 11 (花とゆめCOMICS)

ラストゲーム 11 (花とゆめCOMICS)

クラスの王様だった小学生・柳の前に現れトップの座を奪っていった少女・九条。柳の10年越しのライバル心はいつしか恋心に変わり、そして……(全11巻)
王道ロマンス完結。もともとは1巻収録分の読み切りだったというのもあって、話の流れはそれを再度なぞるものだが、その過程で魅力的なサブキャラたちが登場したのが嬉しい。柳の妄想・暴走っぷりのおかしさと、決めるときに決めてくれるカッコよさが際立つ物語だった。末永くお幸せに!

ぎなた式

ぎなた式 (ジャンプコミックス)

ぎなた式 (ジャンプコミックス)

スポーツ万能だが何事にものめりこめない高校生・月嵩の前に転校してきた女子・國田。なぎなたを抱えた彼女の目的は目立たないクラスメイト・西條だという。(1巻完結)
「楽しみながら成長する者」と「苦しみながら成長する者」のダブル主人公というスポ根ものの王道。二人の真逆のセリフが被る1話ラストに引き込まれた。(1話試し読み)

今日の婚のダイヤ

今日の婚のダイヤ (花とゆめCOMICS)

今日の婚のダイヤ (花とゆめCOMICS)

女子力を磨き上げ恋の駆け引きには慣れたもののOL・豊川だが、30歳を迎えた彼女の前に残った男はさえない公務員……!? (1巻完結)
前作『今日の恋のダイヤ』では典型的な少女マンガの負け役だった豊川さんの復活戦。話の転換を運に頼りすぎている観はあるが、想定外の状況への戸惑いと照れの描写に目が離せない。「前作」といったが話自体は独立しているので、これだけ読んでも楽しめる。

小説・ライトノベル

さよなら妖精

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

1991年、地方都市に住む高校生・守屋の前にユーゴスラヴィアから来た少女・マーヤが現れる。
氷菓』(古典部シリーズ)の作者による青春ミステリ。もともと古典部シリーズの一部として構想されたというだけあって、謎解きのパターンはそれによく似ている。異世界へのあこがれとその終焉に打ちのめされ、読んだあとはただ呆然とする。

近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係

高校生・健一の家で親戚の少女・里奈を預かることになった。それを知った健一の幼馴染・由梨子との距離感も徐々に変化していく。
これまたベタな設定と思うが、ベタな設定は面白いからこそ多用されベタになるものである。少しずつ変化する関係性に対して主人公の感じるもやもや感が見もの。

下読み男子と投稿女子

アルバイトでライトノベル賞応募作の下読みをする男子高校生・青は、ふとしたことから同じクラスの女子・氷雪の秘密を知ってしまう。
読み終えてまず出てくる言葉が「巧い」。作中で語られる創作論と物語の流れとのリンクにページをめくる手が止まらない。王道の展開を王道のまま書ききる確かな筆力に舌を巻くばかり。

この恋と、その未来。

東京の家を飛び出し広島の全寮制高校に入学した四郎。そのルームメイト・未来は性同一性障害だった。
苦く、ままならない青春を描いたシリーズもついに完結。一時は出版自体危ぶまれていた最終巻を出してくれたファミ通文庫には感謝しかない。登場人物それぞれの未来に幸多からんことを。

アニメ

響け! ユーフォニアム2

高校吹奏楽部を舞台にした青春物語。登場人物それぞれの気持ちが解きほぐされつながっていく様に目が潤んでしまう。


声に引き込まれた『昭和元禄落語心中』、安心して楽しめる『チア男子!!』もよかった。

来年の標語

Seize the day. (いまを生きる)