普段着に和服を取り入れて 1 ヶ月

はじめに断っておくと、以下はすべて男物の話である。

きっかけ

京都という土地柄か、着付けのできる人や呉服屋に勤めている人と知り合うことがある。和服はいいよと勧められもしたが、自転車に乗れないのは困るとかトイレが面倒そうだとか言って話から逃げてきた。しかし、よくよく今の状況を考えれば、勤務先は服装規定もなく各自自由な格好で来ているし、家も会社も京都市内で公共交通機関も発達している。ここで普段着として和服を着なければ、一生普段着として和服を着る機会はないだろうと思い至った。身体的精神的に健康と言い切れず逃避先を求めていたこともあり、普段着に和服を取り入れようと決意したのである。

浴衣の入手

購入に踏み切ったのは 7 月であり、時期的にも入手しやすさからもまずは浴衣だろうが、店頭で実際に袖を通して買うかネット通販で済ませるか。迷ったものの最後に背中を押すのは深夜のテンションということで、その時間にも受け付けているネットショップの浴衣セットを購入した。下駄や信玄袋も込みで、とにかくこの一式を買えば上から下まですべて大丈夫という気軽さが決め手だった。

着付け

着付けに関しては「浴衣 男」「浴衣 帯」といったキーワードでググればいくらでも解説が見つかる。帯の締め方はアニメーション GIF で解説しているところがわかりやすかった。男の浴衣の着付けでややこしいのは帯だけだが、それも 3 回も練習すれば何とかそらで締められるようになる。

既製品なのである程度は仕方ないがどうにも浴衣の丈が長く、水洗いしたら多少は縮んだもののまだ長いので、3 cm ばかりおはしょりを作り帯の下に隠している。これがあるのでちょっと手間取ってしまい、今現在は着るのに 10 分ほどかかっている。

肌着はユニクロ綿 V ネックインナーを使っているが、着崩れてくると襟元から覗いてしまうことがあるので、もっと襟ぐりの広いものがよいかもしれない。9 月に入ってからは、後述する書籍の影響で丸首 T シャツを襦袢代わりとしている。当初下着はトランクスだけだったが、椅子に座ると浴衣と太ももがじかに接するのが気になり、ユニクロ無地のステテコを買ってきた。

外出

普段は自転車通勤だし休日出かけるときも自転車がメインだが、浴衣を着るとそうもいかないので公共交通機関か徒歩となる。京都市バス一日乗車券は常にストックしておくことにした。下駄を履いて歩くと靴のときと比べて所要時間が約 1.2 倍になる。徒歩は自転車の 3 倍の時間というのが私の中での目安なので、自転車で 10 分の距離なら浴衣のときは 30 数分歩く計算だ。

浴衣セットの中に信玄袋もあったのだが、こちらは柄があまり好みでなかったので、オープンソースカンファレンス Kyoto でもらった小ぶりのトートバッグを使っている。和服というと袂からがま口でも取り出すイメージがあったのだが、実際のところ袂に入れられるのはハンカチやティッシュがいいところで、財布やケータイなど重みのあるものを入れると袖の動きが変になる気がする。今のところは左の袂にティッシュ、右の袂にたすきがけ用の腰紐、それ以外の持ち物はトートバッグという形に落ち着いている。

時間を見るのにいちいちケータイを取り出すのは面倒だし、アナログ表示のほうが確認しやすいので、洋服のときは腕時計をはめている。しかし、和服に腕時計をはめると袖口が引っかかって切れてしまうこともあるらしいので、腕時計もバッグに入れっぱなしだ。これはやはり面倒なので、そのうち懐中時計を入手したい。懐中時計紐を使えば今よりは確認しやすくなるのではないかと思う。

雨具のことは何も考えておらず、雨の日は洋装にすると決めている。

トイレ

普段着にする以上トイレの問題を避けることはできない。用を足す前に帯を解くのは洋服で用を足す前にベルトを外しズボンを下げるのと同じという意見はもっともだが、やはり面倒くさく感じてしまうので、帯を解かずに上にずらし用を足した後に着崩れを直している。たすきがけをしておくと安心感が高まる。

とはいえ、どうにも崩れが激しく帯を結びなおすしかないというときもある。床につけないよう帯を解く端からトイレットペーパーのように丸め、その状態から結びなおす練習をしておいて損はない。それでも和式トイレやふたのついていない洋式トイレでは怖くてできないが。

洗濯と収納

浴衣を普段着にするにあたって一番調べたのは洗濯のことだ。何せ毎週着るのである。そのたびにクリーニングに出したり手洗いするだなんて面倒くさくてやってられない。家の洗濯機で洗えるのは絶対条件だ。(面倒くささは実際の労力よりも習慣化されているかによるところが大きい。クリーニングをほとんど利用しない私にとっては、洗濯機で洗って干し畳むよりも、クリーニング屋に預けて取りに行くほうが面倒くさい。)

洗濯機で洗う際には襟をしつけ縫いするそうだが、それすら億劫と思っていたところ着物用の洗濯ネットがあることを知った。たたんだ状態で固定して洗えるので大きく崩れることがない。ネットに入れて中性洗剤を使いドライコースで洗っている。

洗濯後は裏返して着物ハンガーにかけ干している。干すとき襟や前身ごろを叩いてしわを伸ばしはするが、面倒さが先立ってアイロンがけはしていない。しわが気になるときは本だたみにして寝押ししている。寝押しもググればござをかけてだのビニールコーティングされた布に包んでだのというが、そうした布もないので変な汚れがつかないようゴミ袋に浴衣を入れ、下にダンボールを敷いた状態で布団の下に挟んでいる。

勤務中は冷房の効いた部屋で座りっぱなしだし、公共交通機関も冷房がかかっているが、どうしたって外を歩く場面は出てくるし夏に歩けば汗をかく。かといって頻繁に洗濯しすぎてはすぐに布が痛んでしまうだろうから、2、3 回着たら洗濯するようにしている。

どうも不精なたちなので 1 回着たら次着るまで着物ハンガーに掛けっぱなしだ。後述するように別の着物を買ったが、こちらは着れる時期がまだ先なのでしまいこんである。といっても桐のタンスなんてないしクローゼットもしょっちゅう開閉して気密性がないから、本だたたみにしてたとう紙で包み、さらに両端から防虫剤同封のゴミ袋をかぶせてクローゼット内に寝かせた状態だ。本だたみのやり方は動画での解説がわかりやすかった。

デメリット

夏場に浴衣で過ごして一番気になるのは、細かな温度調節ができないことだ。私は普段屋外では T シャツ 1 枚でも、冷房の効いた屋内に入れば長袖シャツ (腕をまくりはするが) を羽織るようにしている。浴衣はいってみれば肌着の上に常に長袖を羽織った状態なので、屋外ではどうしても暑く感じられる。

男物ですらそうなのだから、おはしょりを作ったり補正にタオルを入れたりする女性の場合はなおさらだろう。浴衣は涼しそうに見えても決して無条件に涼しいものではないというのが着てみた実感だ。とはいえ、扇子で袖口から風を送ると脇や横腹の辺りまでひんやりしてきて、これはこれで気持ちいい。

また、ポケットがないので小物の持ち運びに困るというのもある。移動中はバッグに入れていても困らないが、ちょっと席を立った折にケータイを忘れていたということはよくある。たもと落とし和風ウエストポーチというのがあるそうなので、それらを使うのもひとつの手かもしれない。

参考

和服を普段着とするのにネット上でいろいろと調べ物をしたが、中でも参考になったのは以下のサイトだ。

Kimono-Wa-fuku:きもの-わ-ふく
普段着としての着方やトイレ歩き方座り方のコツなど、平時和服を着るための要項が充実している。読み物としても面白い。
男だって、着物がきたい。
「ふだん着物のススメ」、とりわけ「自分のサイズを知る」の簡易な測り方が2着目を買うのに役立った。

和装小物のお店で「まだ和服のことを全然わかってなくて」と言ったら、『男のふだん着物』という本をおすすめされた。早速読んだところ、フォーマルな場では洋服、和服は普段着と割り切った上で、襦袢代わりに T シャツやタートルネックセーター、足元も場合によってはスニーカーやサンダルで OK と説いている。こんな着方で大丈夫だろうかとつい萎縮してしまいがちな身にとっては、非常に勇気付けられ気の楽になる本だ。後から知ったが同じ著者による新しい書籍もあるので、そちらでもよかったかもしれない。

男のふだん着物

男のふだん着物

自由にいこう! 男着物

自由にいこう! 男着物

経費

和服を普段着とするため現在までにかかった費用は下表のとおりである (送料を除く)。和服は高価というイメージを持つ人もいるようだが、古着を利用すればそうでもないように思う。

浴衣セット (綿麻浴衣、綿角帯、下駄、腰紐、信玄袋、扇子)
¥6,480
古着着物アンサンブル (ウール単長着、ウール羽織、モスリン長襦袢)
¥2,100
綿スタンドカラーシャツ
¥3,900
綿 T シャツ
¥790
腰紐 (2 本)
¥190×2
ステテコ (2 枚)
¥790×2
ストレッチ足袋
¥1,780
ストレッチ足袋
¥1,380
着物ハンガー
¥880
着物用洗濯ネット
¥850
中性洗剤
¥298
防虫剤
¥598
書籍 (男のふだん着物)
¥900
¥21,916

これから

秋になると襦袢なしでいるのもどうかと思い、古着も扱うネットショップ長襦袢付きの着物セットを買った。しかしモスリン地の長襦袢で、羽織ってみたところ寒くならないと着れなさそうだったので、とりあえずこの秋は T シャツやスタンドカラーシャツを襦袢代わりにして過ごすつもりでいる。来春まで意志が継続していたら麻の長襦袢を入手したい。

袴にズボンクリップを使えば自転車に乗れるかもと思ったが、袴は家で洗濯できるようなものではないらしいので当分そろえるつもりはない。

今は週に 2 日、平日 1 回休日 1 回のペースで和服を着ている。手持ちからいってもこのペースが限界だろう。伝統だ決まりだととらわれることなく、自分の着やすいように着ていきたいと思っている。